先日、1年前に当院でレーザー白内障手術+3焦点トーリックIOLの手術を受けた患者さまのレンズを触る(手直しする)機会を得た。

術中診断装置であるオラと術前検査であるベリオンでの乱視矯正の推奨軸の違いが出た場合の対応の仕方とその原因が分からなかった時期…オラデータの全てを信じてIOLを挿入していたことがある。

クリニックには、ベリオンを導入したのが先であったため、単焦点トーリックIOLでの使用経験として…その精度には舌を巻いていたものであった。だが、所詮は理論値。実測値であるオラの方がより正確なデータだと信じていた。ただし、現場でしっかりオラの指示どうりにIOL度数や乱視軸(角膜乱視矯正軸)を整えてもいまいち視力が上がりきらない方を経験した。

何故だろう?メーカーに聞いてもオラは、角膜後面データまで拾っているからベリオンより正確だとする意見ばかり。しばらくは、ベリオンとオラデータが一致すると安堵していたものだ。少なからずそういった場合も存在した。

しかし、よくよく考えてみると…オラは眼球回旋(仰向けになると自然と目が回旋する)を加味していない。ベリオンはちゃんと加味している。乱視の矯正軸は、回旋もしっかり加味していないとズレて当然。

今では、オラをレンズ度数決定や乱視矯正レンズのスタイル(強さ)決定に使用し、ベリオンで乱視矯正軸を決定して、良い術後成績を得た。私の中の迷いは完全に消滅した。

そんな中、冒頭の1年前の手術時…オラデータが最高のデータだと信じ、乱視矯正軸までオラで決めてトーリックIOLを挿入した時期の患者様が久しぶりに来院された。左眼は問題なく視力が出て快適だが、右眼がはっきりしない。左眼はオラとベリオンの推奨軸に差がほぼ無かったためで、しっかり角膜乱視が矯正され続けていた。一方で右眼は角膜乱視が減って無いのが原因だと分かった。ベリオンの推奨軸とトポ(角膜形状解析)は一致している…患者様と相談して軸を直させて頂くことにした。確証は無いが…多分軸をベリオンの軸に合わせてあげられれば上手く視力が出るはず。これは、まさに私の経験値から出た答え。

ただ、1年前のレンズってそもそも動かせるの?3焦点IOLのメーカーに問い合わせしてみたが半年以上経過したものは癒着が強く勧められないとの返答。前代未聞だ…。チン小帯が外れたり、後嚢破損したりと悪い報告はいっぱいある。

これは、全ての患者様に当てはまるわけでは無いので、誤解して欲しくないのだが…今回は、たまたま上手く癒着を外せ問題なく乱視軸を移動することができた。結果…右眼も裸眼視力がしっかりと1.2まで戻った。かなりの手術時間を要したが…頑張った甲斐があった。

私を再手術に強く駆り立てたのは…まず、私自分がやった手術であったこと。当院では、3焦点 IOLには全例にCTRを入れていること。あと散瞳検査後に診察した時の直感。この3つの要因から手術に踏み切った。大丈夫かもしれないと勝算もありき。ただ申し訳ないが…無理そうなら撤退して、Add-onレンズで調整するとも事前に話しておいた。大多数の意見や一般的な選択肢はこれだろう。ただし、必要以上にコストが患者様にはかかる。安易には勧められない。

多焦点レンズを取り扱うようになり…実際一人に掛かる診療時間や説明にはかなりの時間を割く必要が出ている。正直、反応も千差万別すぎて投げ出したくなることもある。が…ORTさん達や看護婦さん達も巻き込んでのレンズ決定やその悩んだ形が集約されて、術後結果が伴った時の達成感は、この上なくチーム一丸での医療との雰囲気を味わえる…だから余計、みんなで勉強してより良い方法を模索したくなる。副産物として…うちでは今や単焦点のトーリックIOLの適応もORTさんや看護婦さんも一緒に悩んでくれる現状を生み出した。本当に患者様思いのスタッフ達に恵まれている。

今回も…患者様の喜びを自分のことのように喜んでくれている多くのスタッフ達を目の当たりにすることが出来た。1年前の3焦点レンズが無事に動かせたことも奇跡だが…手術経過を一緒に喜びあえるスタッフ達に巡り会えたのも奇跡。

下之城眼科クリニックは、患者様に真に寄り添ったスタッフ達に出会える奇跡の場所なんだと実感させられた出来事であった。

下之城眼科クリニック